第三章:「食事と楽しい観光」 無事初日の宿を決めた男は旅の楽しみの一つである食事に出掛けた。 食べ物が美味しいタビタビ王国。ここ旧市街地にも安くて美味しい現地料理が食べられる屋台街がある。 男はしっとりとした暑さと、活気が溢れる屋台街を歩いた。 地元の人に交じり、たくさんの外国人が食事を楽しんでいる。椅子とテーブルしかない素朴な屋台から、白人が好みそうな小洒落たレストランなど所狭しと並んでいる。白熱灯の明るい光の下で真っ白い湯気をあげて麺を茹でる親父や、南国らしく様々な種類の果物を並べてフルーツジュースを作る若い女性達。もちろん普通の民家もあり生活臭さが溢れている。 多くの人が行き交うこの路地に、現実と非日常が入り乱れる。男は少しだけ高揚感を覚えた。 男は特に食べる物を決めてはいなかった。 目に入ってきた美味しいそうなもの、興味をそそられたものを食べてみる。これが男のいつもだ。 男はとある屋台の前で立ち止まった。 大きな鉄板の上で豪快に白い生地を焼いている。インドのナンのようだ。周りの客を見ると、その生地を茶色いどろっとした何かを煮込んだような物につけて食べている。外国人旅行者に交ざり、現地の人間もたくさん食べている。 興味を引かれた男は、ビールと周りと同じものを注文して席についた。 嬉しいことに座ると同時に冷えたビールが運ばれてきた。男は「ありがとう」と一言いうと、冷え切ったビールをグラスに注いだ。すぐにグラスの周りに水滴がつく。 ひとくち口に運ぶ。 ありふれた表現だが、五臓六腑に染み渡るとはこのことだろう。きつい刺激と共に、冷たい感覚が体を流れてゆく。空腹だった為か、男はしばらくすると気持ちよくなってきた。 運ばれてきた料理も食べ方はナンとよく似ていたが、思ったより辛かった。通りでビールがすすむ訳だ。周りもたくさん飲んでいる。 少しだけ外界の音が小さくなった。酔いのせいだろうか。ほおが火照るのを感じる。 男は思ったより長い時間をその屋台で過ごした。
翌朝目覚めると、時計の針は7時30分をさしていた。 疲れたせいかぐっすり眠れたようだ。目覚めがいい。男は空腹を覚えたので、1階にあるレストランで食事をすることにした。 ちょうどいい程度に茂った木陰で、男は注文したトーストとコーヒーを口に運んだ。 既に強烈な光が差し込んでいるが、午前中という事もあり、木陰にいると随分と涼しい。目覚めのコーヒーがとても美味しく感じる。やる気のなさそうに働いている宿の若い女の子を眺めながら、男は贅沢な時間を過ごした。 今日の予定は市内観光だ。 首都ボッタレーは遷都されてから100年足らずの新しい街だが、国で一番の権威を持つ寺がある。国の半数以上がデータラメ教徒である。美しいデータラメ像がたくさんあるお寺でも有名だ。幸い男の宿がある旧市街地から歩いて行ける距離だったので、朝食後歩いて観光することにした。 20分ほど歩くと、すぐにその威厳ある大きな寺に着いた。 まだ午前9時過ぎだというのに結構な人で賑わっている。拝観料500ボリーを支払い、男は誤字だらけの日本語パンフレットを受け取って境内に足を運んだ。 中は歩く所がない程の人で埋め尽くされていた。男は人の熱気と、暑い日差しの中を歩いた。 寺は、巨大な古木を中心に建立されたそれは見事な寺だった。各国からやって来ている観光客を悠然と、そして柔らかく見守っている。男はその威厳に圧倒されながらも、寺に施された繊細な装飾にも心を奪われた。 「素晴らしい」 男は自然と口にした。 それにしてもすごい人だった。人を避けながら歩くのに苦労した。 しばらく歩くと、日本人の団体がかたまってガイドらしき人物の話を熱心に聞いている。男は何気なく近くに立ってガイドの話に耳を澄ませた。 「・・・それから、寺に入る時は靴と靴下を脱いでください。中に入ったら床に座って頭の上で手を合わせてください。そして『ドンドーン、ボッタレー、ドンドーン、ボッタレー』と言ってください」 汗だくになりながら話す男性ガイドの話を、皆真剣に聞いている。 「本当だったんだな・・」 事前にガイドブックなどで情報を仕入れており知ってはいたが、男は改めて驚いた。寺の中に入ってから、その合唱をする光景に再度驚いた。あまり気は進まなかったが、仕方なく男も頭の上で手を合わせる事にした。
市内観光を終えた男は、明日の夜行バスのチケットの手配する為に、長距離バスターミナルに向かった。 目的地は古き歴史の残る都市「コトー」である。ボッタレーに首都が遷都されるまで都が置かれていた場所だ。 バスで約17時間程度かかる。 男はチケット売り場で900ボリーを払い、チケットを購入した。出発は14時である。長丁場だ。 チケットを購入した男は、早めの夕食を済ませ部屋で少しくつろぐことにした。 ジリリリリリーン 電話の音?誰だろう。男は受話器を取った。 「ハロー?」 「俺だ」 「・・・・」 「・・・・・」 「俺なんて奴は知らない」 「冷たいなあ、せっかく電話したのに」 「どうしてここが分かった?」 「いいじゃんそんなこと。それよりレポートメールどうもありがとう。ちゃんと送ってきてくれて助かるよ」 「約束だからな」 「順調なすべりだしだね、さすが」 「何が目的だ?」 「酷いなあ。心配してるのに」 「嘘くさい」 「本当だよ。なんなら明日の夜行バス、谷か何かに落とそうか?」 「やめてくれ」 「ふふ、冗談だよ。こっちはもう遅いんで寝るね。おやすみ」 ツー、ツー 気持ち悪い奴だ、男は受話器を電話に置くと、一杯飲む為に1階のレストランに降りた。 第四章:「移動、そして出会い」へ バーチャル旅日記トップへ Homeにもどる |